暮らし

バーミヤンを弄んだ

落語「恵」

熊さん「こんちわー、ご隠居いますかーい」

 

ご隠居「はいはい、おや、誰かと思ったら熊さんじゃないか。まぁお上がりお上がり」

 

熊「どうも、ご隠居。今日はね、ちょいとお願いがあって来やして」

 

隠「ほう、 お前さんがアタシに頼みなんて珍しいね。なんだい?」

 

 ご隠居が聞きますと、熊さんが珍しく神妙な顔で言います。

 

熊「他じゃねぇんですがね、アッシんところに子供が生まれまして」

 

隠「おや! オメデタ」

 

熊「それでカカァと話をしてたんです、名前を付けなきゃいけないってんでね」

 

隠「そうだな。子どもには名前を付けるもんだ」

 

熊「そんでカカァが、お前さん付けとくれってんですが、アッシは学がねぇ。だからね、ウチのガキの名前付けちゃくれやせんか、頼みますよご隠居」

 

隠「そうかい、じゃぁ喜んで付けさせて貰いましょ。でも何かい、名前を付けるってことぁ、アタシが赤ちゃんの名付け親になるって事だよ。構わないのかい?」

 

 もちろんと頷く熊さんに、

 

隠「うん。お前さんも人の親になったんだ。こういう風に育ってもらいたい、こういう風に成って欲しいなんて願いもあるだろう。どういう名前がいいかな」

 

 すると熊さん、ご隠居に顔を近づけると、

 

熊「長生きするような、めでてぇ名前なら何でもいいんだ。

 いやね、生まれる前ぇは、こうなって欲しいああなって欲しいなんて思いもしましたが、顔見ちまうとどうでもよくなっちまって。へへ、親ってのは妙なモンだね。とにかくまぁ、長生きしてくれりゃぁいいと思ってね。何か縁起のいい名前をお願いしやすよ」

 

 と言います。それを聞いたご隠居は少し感心したように、

 

隠「ほう、縁起のいい名前な。それじゃぁどうだろうな。

これはアタシも聞いた話で実際に見して貰ったことがあるわけじゃぁないんだけどね、TBSのお昼に出てくる芸人で、『恵俊彰(めぐみとしあき)』というのがある。どうだい?」

 

熊「『ひるおび!』ですかい?そりゃめでてぇね。毎日ずっと恵なんて結構ですね。他にも何かありますかね?」

 

と熊さん目を輝かせる。

 

隠「うん『海砂利水魚の4年先輩』ってのもあるな」

 

熊「え、めでてぇのかいそれ、海砂利?」

 

隠「海砂利水魚ってのは今で言うくりぃむしちゅーさんだな。芸歴でいうと恵はくりぃむさんの4年先輩ってな話だ。朱子学でいうところの上下定分の理ってやつだな。芸人にとっちゃあ、芸歴ってのは何より大事だ」

 

熊「へぇー、そんな話があるとは知らなかった。そりゃいいね。他にも何かありやすか?」

 

 感心しきりの熊さんに、ご隠居も悪い気がしません。

 

隠「『世田谷区内が住むところ』ってぇのがあるな。

恵は3億円の『ひるおび御殿』を建てたんだが、これが世田谷の成城にあるらしい。

恵には

・1997年生まれの長男・俊太(しゅんた)くん

・2004年生まれの二男・楓徒(ふうと)くん

・2008年生まれの長女・愛結(あゆ)ちゃん

・2012年生まれの三男・暖真(はるま)くん

と四人の子供がいるんだ。恵の子供が通う小学校は成城学園付属校である成城学園初等学校だといわれている」

 

熊「恵のパーソナルデータですかい。こりゃあ縁起がいいですね」

 

隠「『今田耕司の2年下』というのもある」

 

熊「また芸歴ですかい」

 

隠「まあそう言うな。恵の顔を見てみろ。いかにも芸歴に厳しそうなツラじゃねえか。今田耕司さんはわかるだろう?M1の司会だな。芸歴でいうと恵は今田さんの2年後輩なんだ。意外な感じがしねぇか?こうした芸歴の上下を覚えておくと、恵の芸能界での立ち位置がわかりやすくなってくるんだ。子どもの名前に付けときゃ忘れねえだろう?」

 

熊「そいつぁ勉強になりやすね。じゃあ、それも頂きやしょう」

 

隠「こういうのも思い出したな。アタシが子供の頃聞いた話だが、『デブとデブのコンビだったのに恵だけ痩せた』」

 

熊「どういう意味です?」

 

隠「そのままの意味だよ。恵の相方はわかるかい?石塚英彦さんだ。石ちゃんとも言うな。今では石ちゃんはデブキャラ、恵は細いが、昔は恵もデブだったんだ」

 

熊「本当ですかい!?信じられねぇな」

 

隠「うん。元々はそうだったんだが、岸谷五朗さんに貶されるのが嫌だという理由でダイエットした結果20kgも減量したんだ。20年くらい前のことかな。それ以来『痩せている方』になったってなわけよ。石ちゃんは『恵が食べなくなったので、その分自分が食べて余計に太った』なんて言ってるな」

 

熊「なるほどねぇ、こりゃあ恵のエピソードだ」

 

隠「それから『ホンジャマカ』だな。恵の所属するコンビ名だ。コンビといっても、元々は11人体制のグループだったんだが、メンバーが脱退しまくって石ちゃんと恵の2人だけになったんだ。その名前にあやかってみるのも、面白いんじゃないかい」

 

しかし、これには熊さんも渋い顔。

 

熊「……ご隠居さんねぇ、人の子供だと思うからそう言うんだよ。自分の子供にそんな名前付けるかい? ホンジャマカだよ? 学校でいじめられんじゃねぇかなぁ」

 

隠「まぁまぁ、そりゃぁ今思い出したついでの話だ。まだ調べれりゃあいくらも出てくるだろうが、どうするね、調べるかい?」

 

と言うご隠居に、熊さんは手を振って、

 

隠「いや結構、なんてったって今日中に名前を付けてやりてぇ。ただ、覚えきれねぇんでね、ご隠居さん紙に書いちゃ貰えませんか」

 

と、言います。

 ご隠居がそれまでの名前を紙に書いて渡しますと、熊さんは走って行ってしまいました。

 

 名前を書いた紙を貰って家に帰った熊さん。おカミさんと話をするけれど、どれも恵の名前ですから、とても決め切れるものじゃありません。そのうちに考えるのも嫌になり、

「えーいメンドくせー、全部付けちまえ」

てんで、候補に上がった名前をみんな付けちまう。

 恵のご利益なのか、この子は病気一つしないでスクスクと育ちます。

 やがて学校に通うようになると、朝、友達が迎えに来る。

 

友達「恵恵恵の俊彰 海砂利水魚の4年先輩4年先輩4年先輩 世田谷区内が住むところ 今田耕司の2年下 デブとデブのコンビだったのに恵だけ痩せた ホンジャマカホンジャマカホンジャマカの俊彰ちゃん、学校行きましょ」

 

 するとおカミさんが出てきて、

 

おカミさん「あらお早うよっちゃん、迎えに来てくれたのかい? それがウチの、

恵恵恵の俊彰 海砂利水魚の4年先輩4年先輩4年先輩 世田谷区内が住むところ 今田耕司の2年下 デブとデブのコンビだったのに恵だけ痩せた ホンジャマカホンジャマカホンジャマカの俊彰は、まだ寝てんのよ。今起こすからちょっと待ってて頂戴ね。

 ほら、いつまで寝てるの。学校が始まっちゃうじゃないのさ。いつまで寝てるんだいこの子はまったくもう! 恵恵恵の俊彰 海砂利水魚の4年先輩4年先輩4年先輩 世田谷区内が住むところ 今田耕司の2年下 デブとデブのコンビだったのに恵だけ痩せた ホンジャマカホンジャマカホンジャマカの俊彰…」

 

友「おばちゃん、学校始まっちゃうから先に行くねー」

 

なんて事も日常茶飯事。

 そのうちに男の子らしく、ワンパクに育ちましたから、たまにはケンカもします。

 勢い余って、相手の男の子の頭をポカリと殴っちゃって、その子がコブをこしらえて家に言いつけに来る。

 

金坊「うえーーーーん! おばちゃんとこの、恵恵恵の俊彰 海砂利水魚の4年先輩4年先輩4年先輩 世田谷区内が住むところ 今田耕司の2年下 デブとデブのコンビだったのに恵だけ痩せた ホンジャマカホンジャマカホンジャマカの俊彰ちゃんが、アタシの頭ぶって、こんな大きいコブをこしらえたよー!」

 

カ「え、なんだって金ちゃん、ウチの恵恵恵の俊彰 海砂利水魚の4年先輩4年先輩4年先輩 世田谷区内が住むところ 今田耕司の2年下 デブとデブのコンビだったのに恵だけ痩せた ホンジャマカホンジャマカホンジャマカの俊彰が、金ちゃんの頭にコブを作ったって!?そうかいゴメンよ。勘弁してねぇ」

 

と謝ると、おカミさんは熊さんに向かって、

 

カ「ちょっとお前さん聞いたかい? 恵恵恵の俊彰 海砂利水魚の4年先輩4年先輩4年先輩 世田谷区内が住むところ 今田耕司の2年下 デブとデブのコンビだったのに恵だけ痩せた ホンジャマカホンジャマカホンジャマカの俊彰が、金ちゃんの頭にコブを作ったって」

 

熊「何! 恵恵恵の俊彰 海砂利水魚の4年先輩4年先輩4年先輩 世田谷区内が住むところ 今田耕司の4年下」

 

カ「恵は今田さんの2年下」

 

熊「今田耕司の2年下 デブとデブのコンビだったのに恵だけ痩せた ホンジャマカホンジャマカホンジャマカの俊彰が金坊の頭にコブをこしらえた!?

どれ金ちゃん、おじさんに頭ぁ見せてくれ…………って何だい金ちゃん、コブなんかどこにも無ぇじゃねえか」

 

金「あんまり名前が長いから、コブが引っ込んじゃったよ〜〜〜!」

 

めぐみ